冬の短歌・・・マイプロジェクト365より
2018年12月
1日 法隆寺読経の声に急かされて堂を出ずれば空にも彩雲
2日 御堂筋ライトに浮かぶ銀杏の木黄金色した雨を降らすよ
3日 娘より着きしメールの添付には頬赤くして眠る子のあり
4日 ふつふつとふろふき大根炊いており湯気にくもった窓に満月
5日 田駅裏遭難すつくづくと街を歩けぬ女やと思ふ
6日 澄みわたる冬空にひとつ煌めいて見失いそな行方を照らせ
7日 大きなる冬雲おおう天(そら)のした天使の梯子いくつも下る
8日 冬空を映したビルの硝子窓ブルーグレィ溶かすクリスタルBOX
9日 電波よりささやく君の声溶かしワイングラスに揺られ眠ろう
10日 朝一の唯一無比のわがままはあと半時を寝かせてください
11日 枯らしの師走の空に泳ぎゆく鯨雲追う波雲捷し
12日 イエスタディワンスモアもうあの日には帰れないこと今は知ってる
13日 軽やかにミシンを刻む昼下り綾なす思い縫い込めていく
14日 よく生きることはシンプルに生きることうっかり忘れる日々の複雑
15日 金色のいちょうに銀の薄日さし燻されたよな和泉野になる
16日 仕事から追われることもよしとしよういずれ時間は余まる日が来る
17日 挨拶は「寒くなったね」が定番に真冬へ向かう雲流れゆく
18日 酒に酔い人の情に酔いしれて目覚めし後も倦怠に酔う
19日 電波とうあやしき糸の切れし夜は伝え切れずに言葉は迷子
20日 師走きてATM前の長き列声を荒げるあんたが煩い
21日 時きざむ時計の音と枯れ葉舞う音を聞いてる夜半に目覚めて
22日 澄みわたる冬空にひとつ煌めいて見失いそな行方を照らせ
23日 師走の夜仕事片付け君のもとへ今日の二人はどこまで行くの
24日 オフィス街ぶらり歩けば洒落た店パスタとワインでメリークリスマス
25日 冬という実感のわかぬ師走きてそれでも今朝は吐く息白し
26日 後ひとつ残ったカレンダー〇印会って笑ってまた終わらせていく
27日 散りしきる銀杏はきよせ戯れに黄色きハートを路上に描く
28日 定めなき自由気ままな旅まくら暮の寒波を予報官告ぐ
29日 幾千が笑う波動に驚かずやがて眠りし子に幸あらん
30日 さくさくと仕事片付け暮の街友との年を納めに行こう
31日 一年をあれこれ語ればお互いに思いがけなき縁とぞ思う
2019年1月
1日 くもりなき初春の空拡がりぬあまねく届け感謝の思い
2日 新年の始めに心掛け直す自分への誓い見失うなく
3日 年賀状友らの言葉「無理するな」異口同音に書きくれてあり
4日 静かなる夜更けにエッセイ読んでいる明日に繋がる言葉探して
5日 冬雲が流るを見れば身のうちにポルシカポーレの歌声響く
6日 人と逢い人と別れて帰る道冬の星座はキラメキこぼす
7日 誠実に優しきままに純粋に歳を重ねて生きむと思ふ
8日 世の中に財はなくてもできること笑顔絶やさずただ聴けばいい
9日 エンドロール果ててもすぐに動けない取り返せない絶唱ラプソディ
10日 守り札どんどに焼べる宵えびす御神酒いただき繁盛祈願
11日 悠然と都の鳥は旋回す飽かず眺めて君を待ちおり
12日 水鳥の川面に遊ぶを見詰めいる二人に流れる優しき時間
13日 黒部から出る水にて醸された美酒に酔わされ雪山思う
14日 若き折りに輝きおりしも歳重ね燻さるるもよし同級生は
15日 ほっこりとしたく紅茶にたっぷりのミルク砂糖で飲む昼下がり
16日 書店にて新刊文庫購入す今年こそ読まん目標冊数を
17日 人ひとり日々の苦などはあまりにも小さきものぞ今日震災忌
18日 頬杖をついてパソコン向かいおり三十一文字の解けないパズル
19日 新雪を踏みしめ登ればみ空より雪のダストはきらめきて降る
20日 ファンヒーターまず点火してぽつねんと目覚めるまでの空(くう)を愉しむ
21日 京都より帰る車窓の西空に朱き炎の冬陽は落ちぬ
22日 黙ってる解らないから聞いてみた尚解らない何がしたいの
23日 車中にてメールする人仕事する人吾は歌を詠める人なり
24日 缶ビールと缶チューハイを呑むだけで酔ってたまゆら愉しき人生
25日 薄暗き駅に電車を待つ君を風に託そういってらっしゃいと
26日 水鳥の川面に遊ぶを見詰めいる二人に流れる優しき時間
27日 己がカラー捨てずに何処までいけるのか岐路に揺らぎし日々にしありて
28日 シクラメン彩り競うその中に白きが故に輝くもあり
29日 山焼きのシャッターチャンスひたすらに待ちて寡黙な寒風の中
30日 化粧して白き北山一目見て三条大橋河原歩めり
31日 忙しき日々に埋もれて水仙の一月尽の花咲くを見ず
2月
1日 くるくると空に大きな万華鏡彩に移ろう人の世のごと
2日 美ら海の碧に浄化と再生を求めて渡る旅人とな
3日 部屋からは港の夕陽が一流のホテルその名はイーストチャイナシー
4日 災いの多かりし年あらたまり立春の朝寒さやわらぐ
5日 日輪の中緩々と友は駈るざわわと広きサトウキビ畑
6日 多弁なる神宿りしかイリオモテ樹々からさえも諭されており
7日 小径にて迷えば揚羽現れて星砂浜へ導きていく
8日 どんな「実」を結ぶことやら「現実」は所詮は「無実」「不実」「誠実」
9日 堂の裡逢いたき人は幾万の千手観音の中に居ませり
10日 苛々と心病めるは生野菜不足かサラダムシャムシャ食みており
11日 酔いごちて曇りなく浮く望月に心照らされ仰ぎつ帰る
12日 シャーペットの雨降る朝は冷えた指君の手の平で溶ける感覚
13日 事務室の机の上に梅一輪知らせてくれる春のふくらみ
14日 笹にわたる風にまじりし若きらのざわめき聞きおり苔むす庭に
15日 浅き春ガラシャの墓に寄り咲くは雪中椿の残り花とう
16日 名ばかりの春とはいえど日脚延ぶ仕事終えたり明るきうちに
17日 如月の雨に打たれて擡(もた)げくる物憂き感覚封じる感情
18日 撫子とストックの苗買ってきた春を迎えに行くのもいいかな
19日 二日続き茶柱たてりよきことの予兆のごとく冬日きらめく
20日 華のなき庭に一輪冬薔薇うす紫の早春のかおり
21日 まさかねえ春一番だなんてねえ春のきざしはゆっくりがいい
22日 足元の明るさにふと振り仰ぐ冬空晴れて満天の星
23日 ゆるゆると流れに掉さし柳川を運河を遡る二人は旅人
24日 少しだけ日差しの伸びる如月におんな一人の旅もいいかと
25日 函館の空に凍て月皓々と雪積む街を照らす哀愁
26日 プリムラの小さき花弁咲き揃い冬空の蒼を引き寄せており
27日 露天風呂根雪に土の匂いすを春の萌しと地の人は言う
28日 散り狂う山茶花拾い手にとれば恋のかよい路渡る浮き橋