秋の短歌・・・マイプロジェクト365より
2019年9月
1日 上質の煎茶を茶碗に六分目たしなみあれば足るを知るとや
2日 睡魔よりもういいじゃないと誘われて無駄な抵抗気付いたら朝
3日 吾癒す‘優しさ’そして‘懸命さ’女ばかりの‘居心地のよさ’
4日 たまゆらの旅情を胸に刻まんと窓辺に寄れば渓流碧し
5日 秋雲と夏雲ともに空にあり飛行機雲はあわい分けゆく
6日 夢だけを追いかけていたひたすらに君と二人の夏が過ぎ行く
7日 未来への悲観と過去の後悔と現在の不安どう生くべきや
8日 蝉しぐれ夏も終わりと燃えていく人生なんだと一人ごちてる
9日 からすうりそんな名前の古書店で残暑に語るそれぞれの本
10日 ここちよき秋色の風吹きたれば霧の草原さざなみたてり
11日 満員の電車に一つ空席がまだ残されし譲り合う心
12日 退けている足を踏み出す勇気なら自分信じる他にはあらず
13日 切りますか?鏡の中の美容師にハイとは言えずに吾が顔見つむる
14日 眠らんと明かりを消したそのあとも明々燈る十五夜の月
15日 芝居跳ね都の道の果てしなく月の明かりは蒼々と冴ゆ
16日 久々に野に出て赤き萬珠沙華今日敬老の日に親はなく
17日 移りゆく季節を一つ越えて知る君への想い変わらないこと
18日 さっぱりと髪整えて気分変え残暑の中を君ら行くらむ
19日 彼岸へと届かぬ思い延々と曼珠沙華咲く終わらない道
20日 教えたり教えられたり生きてきし場所は違えど世は面白い
21日 亜熱帯となるかこの国長月の二十日(はつか)過ぎても炎暑は去らず
23日 吾の知る人すべて遠く感じる日望みある人も望みなき人も
24日 長月の風はAKIIROうろこ雲空の青さも和らぎ始む
25日 嵐さり天空に散る微粉子の光にいよよ秋始まりぬ
26日 背をのばし自転車こいでいく朝の過ぎゆく風も秋の気配す
27日 肉体の脆さ秘めつつ日々生きる笑顔よき君に季節よ廻れ
28日 うろこ雲空いっぱいに拡がりて秋の心は愁いと気付く
29日 天体の軌道はずれし流れ星今宵限りの満天飛行
30日 わが寝間に薫り線香炊きおれば仏の許に寝し夢みし
2019年10月
1日 人生はクレッシェンドと説きし人身振り手振りもだんだん強く
2日 一面のコスモス揺れてペダル漕ぐ足はふわりと風に乗りゆく
3日 秋求め山さすらいて残り花竜胆蒼し陽射しに映えて
4日 寂しさと向き合っている風の朝こぼれる思いに戸惑っておりぬ
5日 流星に誘われ夜の高原で星座アプリで探しものする
6日 リタイアをまた先送るりんりんと夕日の果てへ道続きゆく
7日 賢しさと熱き血潮を見据えてはたじろいており晶子にはなれぬ
8日 いい男可愛げがあってほどよくてそんな人なら惚れぬいていた
9日 定年はゴールとはならず働いてその後も続く100年人生
10日 たまさかの縁に咲くを愛おしむ二輪ずつなる十月桜
11日 草原を風に向かって渉るときナウシカのごと顔上げていく
12日 語り合うたまゆらのとき過ぎゆきて夢去りし後も永遠のたまゆら
2018年10月
13日 スイスイとつかず離れず赤とんぼやっと秋めく長月半ば
14日 秋映とうりんごの濃きを買いきては夜中見つめる寂しいからね
15日 湾岸を染めて遥かな茜雲キラを残して飛行機は行く
16日 朝風に身を委ね漕ぐ自転車のカゴでプルルンメールが届く
17日 何もかも包めるような器ではなかったと気づく秋の始まり
18日 今日逢えるかも突然に朝のメール少し慌ててるコスモスの道
19日 つかぬよに離れぬようにただそっと君へと届く風になりたい
20日 自転車で月まで漕いで帰ります吾はほろ酔いかぐや姫かな
21日 運動会幼らの振る渾身の旗に追われて赤とんぼ舞う
22日 友が住む町の駅にて降り佇てば耳にやさしき北陸訛り
23日 ヘシコ焼く朝餉の臭い流れきて金沢近郷わがノルタルジィ
24日 転生のたびに必ず繰り返す優しき出会い哀しき別れ
25日 スカイブルー絵の具のような穹の下失なったもの埋め合わせていく
26日 ぽつぽつと点だけで描く絵のようにアスファルトの上に降り出した雨
27日 睡魔よりもういいじゃないと誘われて無駄な抵抗気付いたら朝
28日 会うたびに愚痴こぼすのはもうやめて君にあげようとびきりの笑顔
29日 透明に生きられざるか女坂高み遥かに続く山並
30日 振り仰ぐ空一面に巻雲がキャンバス狭しと刷き拡がりぬ
31日 アルファ波じわりあふれるご機嫌の君の声聞き一息入れる
11月
1日 残業の子どもらのため煮るカレー鍋はコトコト鳴りて待ちおり
2日 勤め終え夜の講義に急ぐ頃街は吐き出す人の行列
3日 山路を遥々越えた山宿の湯気の向こうに揺れるもみじ葉
4日 雨の日はダージリンティにジャムを混ぜシャンソン聴いてじっとしていたい
5日 見上げれば梢は彩に織りなしてブナの林は木漏れ日の美し
6日 人は人の寂しさを負う秋空にぽっかり浮かぶ雲を見ており
7日 父母の眠りし大和うるわしくススキは秋の陽をこぼしいる
8日 踏み入れてしまえば容易(たやす)く抜けられぬ人の心に荒野がありぬ
9日 秋映とう林檎買いきて紅(くれない)の深きが故になどか哀しき
10日 血糖値あげんと夜に食む林檎瑞けく甘き血となり流る
11日 法隆寺読経の声に急かされて堂を出ずれば空にも彩雲
12日 夕焼けを追いかけ海へ車駆るカーペンターズのCD聴きつつ
13日 帰宅してポストに喪中の知らせあり団塊世代吾の霜月
14日 重き荷を下ろすも哀しわが友よ永き介護をただ労いおり
15日 紙を漉きて高きに拡げしか雲天いよよ秋深まりぬ
16日 誠実に働くことを損失と思いはせねど空しき日のあり
17日 秋霖にしとど打たれて街路樹の木の葉急いで黄金となる
18日 霜月にありにし朝の化粧(けはい)どき着てゆく服を惑う習いに
19日 ボージョレの紅きはたぎる血潮なり熱き想いを含みて知るや
20日 銀色の秋の光にひったりと濡れて寡黙な昼休みとる
21日 「大丈夫?」言葉の持ってる暖かさ気付けたことはあなたのおかげ
22日 パソコンに向かいし席まで染めてくる赤き日輪を窓に見ている
23日 秋の陽は真っ赤に燃えて注ぎきてその名つぶやくだけの純真
24日 新しきスケジュール帳買いきては予定書き込むだけで嬉しき
25日 早々に今年最初の忘年会ひと月かけて歳忘れゆく
26日 美しき人は夕陽を身に浴びてやさしく歩むその細き道
27日 ボールペン買いて失いまた買えり鉛色した空しか見えない
28日 逡巡しそれでもやっと電話して沈黙恐くてすぐにさよなら
29日 コンクリート隅にたゆたう日だまりにはらり舞い散る落ち葉見ており
30日 銀行の窓口の飾りも新たまりポインセチアと柊となる