櫻追いかけて
冬の短歌・・・マイプロジェクト365より
2018年12月
1日 法隆寺読経の声に急かされて堂を出ずれば空にも彩雲
2日 御堂筋ライトに浮かぶ銀杏の木黄金色した雨を降らすよ
3日 娘より着きしメールの添付には頬赤くして眠る子のあり
4日 ふつふつとふろふき大根炊いており湯気にくもった窓に満月
5日 田駅裏遭難すつくづくと街を歩けぬ女やと思ふ
6日 澄みわたる冬空にひとつ煌めいて見失いそな行方を照らせ
7日 大きなる冬雲おおう天(そら)のした天使の梯子いくつも下る
8日 冬空を映したビルの硝子窓ブルーグレィ溶かすクリスタルBOX
9日 電波よりささやく君の声溶かしワイングラスに揺られ眠ろう
10日 朝一の唯一無比のわがままはあと半時を寝かせてください
11日 枯らしの師走の空に泳ぎゆく鯨雲追う波雲捷し
12日 イエスタディワンスモアもうあの日には帰れないこと今は知ってる
13日 軽やかにミシンを刻む昼下り綾なす思い縫い込めていく
14日 よく生きることはシンプルに生きることうっかり忘れる日々の複雑
15日 金色のいちょうに銀の薄日さし燻されたよな和泉野になる
16日 仕事から追われることもよしとしよういずれ時間は余まる日が来る
17日 挨拶は「寒くなったね」が定番に真冬へ向かう雲流れゆく
18日 酒に酔い人の情に酔いしれて目覚めし後も倦怠に酔う
19日 電波とうあやしき糸の切れし夜は伝え切れずに言葉は迷子
20日 師走きてATM前の長き列声を荒げるあんたが煩い
21日 時きざむ時計の音と枯れ葉舞う音を聞いてる夜半に目覚めて
22日 澄みわたる冬空にひとつ煌めいて見失いそな行方を照らせ
23日 師走の夜仕事片付け君のもとへ今日の二人はどこまで行くの
24日 オフィス街ぶらり歩けば洒落た店パスタとワインでメリークリスマス
25日 冬という実感のわかぬ師走きてそれでも今朝は吐く息白し
26日 後ひとつ残ったカレンダー〇印会って笑ってまた終わらせていく
27日 散りしきる銀杏はきよせ戯れに黄色きハートを路上に描く
28日 定めなき自由気ままな旅まくら暮の寒波を予報官告ぐ
29日 幾千が笑う波動に驚かずやがて眠りし子に幸あらん
30日 さくさくと仕事片付け暮の街友との年を納めに行こう
31日 一年をあれこれ語ればお互いに思いがけなき縁とぞ思う
2019年1月
1日 くもりなき初春の空拡がりぬあまねく届け感謝の思い
2日 新年の始めに心掛け直す自分への誓い見失うなく
3日 年賀状友らの言葉「無理するな」異口同音に書きくれてあり
4日 静かなる夜更けにエッセイ読んでいる明日に繋がる言葉探して
5日 冬雲が流るを見れば身のうちにポルシカポーレの歌声響く
6日 人と逢い人と別れて帰る道冬の星座はキラメキこぼす
7日 誠実に優しきままに純粋に歳を重ねて生きむと思ふ
8日 世の中に財はなくてもできること笑顔絶やさずただ聴けばいい
9日 エンドロール果ててもすぐに動けない取り返せない絶唱ラプソディ
10日 守り札どんどに焼べる宵えびす御神酒いただき繁盛祈願
11日 悠然と都の鳥は旋回す飽かず眺めて君を待ちおり
12日 水鳥の川面に遊ぶを見詰めいる二人に流れる優しき時間
13日 黒部から出る水にて醸された美酒に酔わされ雪山思う
14日 若き折りに輝きおりしも歳重ね燻さるるもよし同級生は
15日 ほっこりとしたく紅茶にたっぷりのミルク砂糖で飲む昼下がり
16日 書店にて新刊文庫購入す今年こそ読まん目標冊数を
17日 人ひとり日々の苦などはあまりにも小さきものぞ今日震災忌
18日 頬杖をついてパソコン向かいおり三十一文字の解けないパズル
19日 新雪を踏みしめ登ればみ空より雪のダストはきらめきて降る
20日 ファンヒーターまず点火してぽつねんと目覚めるまでの空(くう)を愉しむ
21日 京都より帰る車窓の西空に朱き炎の冬陽は落ちぬ
22日 黙ってる解らないから聞いてみた尚解らない何がしたいの
23日 車中にてメールする人仕事する人吾は歌を詠める人なり
24日 缶ビールと缶チューハイを呑むだけで酔ってたまゆら愉しき人生
25日 薄暗き駅に電車を待つ君を風に託そういってらっしゃいと
26日 水鳥の川面に遊ぶを見詰めいる二人に流れる優しき時間
27日 己がカラー捨てずに何処までいけるのか岐路に揺らぎし日々にしありて
28日 シクラメン彩り競うその中に白きが故に輝くもあり
29日 山焼きのシャッターチャンスひたすらに待ちて寡黙な寒風の中
30日 化粧して白き北山一目見て三条大橋河原歩めり
31日 忙しき日々に埋もれて水仙の一月尽の花咲くを見ず
2月
1日 くるくると空に大きな万華鏡彩に移ろう人の世のごと
2日 美ら海の碧に浄化と再生を求めて渡る旅人とな
3日 部屋からは港の夕陽が一流のホテルその名はイーストチャイナシー
4日 災いの多かりし年あらたまり立春の朝寒さやわらぐ
5日 日輪の中緩々と友は駈るざわわと広きサトウキビ畑
6日 多弁なる神宿りしかイリオモテ樹々からさえも諭されており
7日 小径にて迷えば揚羽現れて星砂浜へ導きていく
8日 どんな「実」を結ぶことやら「現実」は所詮は「無実」「不実」「誠実」
9日 堂の裡逢いたき人は幾万の千手観音の中に居ませり
10日 苛々と心病めるは生野菜不足かサラダムシャムシャ食みており
11日 酔いごちて曇りなく浮く望月に心照らされ仰ぎつ帰る
12日 シャーペットの雨降る朝は冷えた指君の手の平で溶ける感覚
13日 事務室の机の上に梅一輪知らせてくれる春のふくらみ
14日 笹にわたる風にまじりし若きらのざわめき聞きおり苔むす庭に
15日 浅き春ガラシャの墓に寄り咲くは雪中椿の残り花とう
16日 名ばかりの春とはいえど日脚延ぶ仕事終えたり明るきうちに
17日 如月の雨に打たれて擡(もた)げくる物憂き感覚封じる感情
18日 撫子とストックの苗買ってきた春を迎えに行くのもいいかな
19日 二日続き茶柱たてりよきことの予兆のごとく冬日きらめく
20日 華のなき庭に一輪冬薔薇うす紫の早春のかおり
21日 まさかねえ春一番だなんてねえ春のきざしはゆっくりがいい
22日 足元の明るさにふと振り仰ぐ冬空晴れて満天の星
23日 ゆるゆると流れに掉さし柳川を運河を遡る二人は旅人
24日 少しだけ日差しの伸びる如月におんな一人の旅もいいかと
25日 函館の空に凍て月皓々と雪積む街を照らす哀愁
26日 プリムラの小さき花弁咲き揃い冬空の蒼を引き寄せており
27日 露天風呂根雪に土の匂いすを春の萌しと地の人は言う
28日 散り狂う山茶花拾い手にとれば恋のかよい路渡る浮き橋
秋の短歌・・・マイプロジェクト365より
2019年9月
1日 上質の煎茶を茶碗に六分目たしなみあれば足るを知るとや
2日 睡魔よりもういいじゃないと誘われて無駄な抵抗気付いたら朝
3日 吾癒す‘優しさ’そして‘懸命さ’女ばかりの‘居心地のよさ’
4日 たまゆらの旅情を胸に刻まんと窓辺に寄れば渓流碧し
5日 秋雲と夏雲ともに空にあり飛行機雲はあわい分けゆく
6日 夢だけを追いかけていたひたすらに君と二人の夏が過ぎ行く
7日 未来への悲観と過去の後悔と現在の不安どう生くべきや
8日 蝉しぐれ夏も終わりと燃えていく人生なんだと一人ごちてる
9日 からすうりそんな名前の古書店で残暑に語るそれぞれの本
10日 ここちよき秋色の風吹きたれば霧の草原さざなみたてり
11日 満員の電車に一つ空席がまだ残されし譲り合う心
12日 退けている足を踏み出す勇気なら自分信じる他にはあらず
13日 切りますか?鏡の中の美容師にハイとは言えずに吾が顔見つむる
14日 眠らんと明かりを消したそのあとも明々燈る十五夜の月
15日 芝居跳ね都の道の果てしなく月の明かりは蒼々と冴ゆ
16日 久々に野に出て赤き萬珠沙華今日敬老の日に親はなく
17日 移りゆく季節を一つ越えて知る君への想い変わらないこと
18日 さっぱりと髪整えて気分変え残暑の中を君ら行くらむ
19日 彼岸へと届かぬ思い延々と曼珠沙華咲く終わらない道
20日 教えたり教えられたり生きてきし場所は違えど世は面白い
21日 亜熱帯となるかこの国長月の二十日(はつか)過ぎても炎暑は去らず
23日 吾の知る人すべて遠く感じる日望みある人も望みなき人も
24日 長月の風はAKIIROうろこ雲空の青さも和らぎ始む
25日 嵐さり天空に散る微粉子の光にいよよ秋始まりぬ
26日 背をのばし自転車こいでいく朝の過ぎゆく風も秋の気配す
27日 肉体の脆さ秘めつつ日々生きる笑顔よき君に季節よ廻れ
28日 うろこ雲空いっぱいに拡がりて秋の心は愁いと気付く
29日 天体の軌道はずれし流れ星今宵限りの満天飛行
30日 わが寝間に薫り線香炊きおれば仏の許に寝し夢みし
2019年10月
1日 人生はクレッシェンドと説きし人身振り手振りもだんだん強く
2日 一面のコスモス揺れてペダル漕ぐ足はふわりと風に乗りゆく
3日 秋求め山さすらいて残り花竜胆蒼し陽射しに映えて
4日 寂しさと向き合っている風の朝こぼれる思いに戸惑っておりぬ
5日 流星に誘われ夜の高原で星座アプリで探しものする
6日 リタイアをまた先送るりんりんと夕日の果てへ道続きゆく
7日 賢しさと熱き血潮を見据えてはたじろいており晶子にはなれぬ
8日 いい男可愛げがあってほどよくてそんな人なら惚れぬいていた
9日 定年はゴールとはならず働いてその後も続く100年人生
10日 たまさかの縁に咲くを愛おしむ二輪ずつなる十月桜
11日 草原を風に向かって渉るときナウシカのごと顔上げていく
12日 語り合うたまゆらのとき過ぎゆきて夢去りし後も永遠のたまゆら
2018年10月
13日 スイスイとつかず離れず赤とんぼやっと秋めく長月半ば
14日 秋映とうりんごの濃きを買いきては夜中見つめる寂しいからね
15日 湾岸を染めて遥かな茜雲キラを残して飛行機は行く
16日 朝風に身を委ね漕ぐ自転車のカゴでプルルンメールが届く
17日 何もかも包めるような器ではなかったと気づく秋の始まり
18日 今日逢えるかも突然に朝のメール少し慌ててるコスモスの道
19日 つかぬよに離れぬようにただそっと君へと届く風になりたい
20日 自転車で月まで漕いで帰ります吾はほろ酔いかぐや姫かな
21日 運動会幼らの振る渾身の旗に追われて赤とんぼ舞う
22日 友が住む町の駅にて降り佇てば耳にやさしき北陸訛り
23日 ヘシコ焼く朝餉の臭い流れきて金沢近郷わがノルタルジィ
24日 転生のたびに必ず繰り返す優しき出会い哀しき別れ
25日 スカイブルー絵の具のような穹の下失なったもの埋め合わせていく
26日 ぽつぽつと点だけで描く絵のようにアスファルトの上に降り出した雨
27日 睡魔よりもういいじゃないと誘われて無駄な抵抗気付いたら朝
28日 会うたびに愚痴こぼすのはもうやめて君にあげようとびきりの笑顔
29日 透明に生きられざるか女坂高み遥かに続く山並
30日 振り仰ぐ空一面に巻雲がキャンバス狭しと刷き拡がりぬ
31日 アルファ波じわりあふれるご機嫌の君の声聞き一息入れる
11月
1日 残業の子どもらのため煮るカレー鍋はコトコト鳴りて待ちおり
2日 勤め終え夜の講義に急ぐ頃街は吐き出す人の行列
3日 山路を遥々越えた山宿の湯気の向こうに揺れるもみじ葉
4日 雨の日はダージリンティにジャムを混ぜシャンソン聴いてじっとしていたい
5日 見上げれば梢は彩に織りなしてブナの林は木漏れ日の美し
6日 人は人の寂しさを負う秋空にぽっかり浮かぶ雲を見ており
7日 父母の眠りし大和うるわしくススキは秋の陽をこぼしいる
8日 踏み入れてしまえば容易(たやす)く抜けられぬ人の心に荒野がありぬ
9日 秋映とう林檎買いきて紅(くれない)の深きが故になどか哀しき
10日 血糖値あげんと夜に食む林檎瑞けく甘き血となり流る
11日 法隆寺読経の声に急かされて堂を出ずれば空にも彩雲
12日 夕焼けを追いかけ海へ車駆るカーペンターズのCD聴きつつ
13日 帰宅してポストに喪中の知らせあり団塊世代吾の霜月
14日 重き荷を下ろすも哀しわが友よ永き介護をただ労いおり
15日 紙を漉きて高きに拡げしか雲天いよよ秋深まりぬ
16日 誠実に働くことを損失と思いはせねど空しき日のあり
17日 秋霖にしとど打たれて街路樹の木の葉急いで黄金となる
18日 霜月にありにし朝の化粧(けはい)どき着てゆく服を惑う習いに
19日 ボージョレの紅きはたぎる血潮なり熱き想いを含みて知るや
20日 銀色の秋の光にひったりと濡れて寡黙な昼休みとる
21日 「大丈夫?」言葉の持ってる暖かさ気付けたことはあなたのおかげ
22日 パソコンに向かいし席まで染めてくる赤き日輪を窓に見ている
23日 秋の陽は真っ赤に燃えて注ぎきてその名つぶやくだけの純真
24日 新しきスケジュール帳買いきては予定書き込むだけで嬉しき
25日 早々に今年最初の忘年会ひと月かけて歳忘れゆく
26日 美しき人は夕陽を身に浴びてやさしく歩むその細き道
27日 ボールペン買いて失いまた買えり鉛色した空しか見えない
28日 逡巡しそれでもやっと電話して沈黙恐くてすぐにさよなら
29日 コンクリート隅にたゆたう日だまりにはらり舞い散る落ち葉見ており
30日 銀行の窓口の飾りも新たまりポインセチアと柊となる
春の短歌・・・マイプロジェクト365より
2019年3月
1日 沈丁花霞かな香り漂いぬ止まる間もなき暮らしにありて
2日 久々に方代歌集開けたり君覚うるや放浪歌人
3日 春の雨避けて入りし甘味処雛は由しく飾られておりぬ
4日 映画観たその夜の夢は最果ての見知らぬ海を舟で漂う
5日 かなしみは人の心の夜叉ならむ荒野にひとり佇むばかり
6日 真実は雨に打たれて怨むごとハナニラはひそかに咲けり
7日 出勤の朝の出がけの足留める薄むらさきの豌豆の花
8日 吾が頭悪さを憂しと思う日は書店の本を端から読みたし
9日 気がつけば吾やわらかに眠りたり旅の疲れを「ひかり」は乗せて
10日 いもうとは受け入れていると言い放つ笑顔よきまま季節よ廻れ
11日 生きること切なき故に愛しいと思ふ今日は震災八回忌
12日 無私となり大切な人守れるや我が十字架は解けることなく
13日 古都の夜を焦がして走る大松明あれより火車は吾が身にありぬ
14日 季は移り修二会の春は巡りきて夜空を焦がす火の粉思えり
15日 夕ざれば数字かすめどやらなけらゃ終わることなき決算業務
16日 俯かず真っ直ぐ歩けば日溜まりの中で微笑む君に会えるや
17日 この頃のやりきれなさを持て余し春雷響く窓際に寄る
18日 彼岸西風(ひがんにし)くぐれば春のただ中か吹き荒らぶれて出勤急ぐ
19日 くもりなき弥生の空は拡がりぬ君に届けよ感謝の思い
20日 年度替えシュレッダーする書類には見覚えのある筆の跡あり
21日 まったりと春の気配の立ち上がる朝は焦げ気味トーストに紅茶を
22日 大蒜と五種類のルーでカレー炊き満たされているそんな日もありき
23日 ダイアリーに走り書きあり将来から見たなら今が一番若いと
24日 パンクした自転車曳いてる朝の道ついてないけどまだ雨は降ってない
25日 目を細めひかり縞なす朝を行くうらら春風受け止めながら
26日 交差点歩幅を広く歩き行く運も不運も心のままに
27日 海沿いに走るローカル線の旅急行待ちする菜の花の駅
28日 悔いなしと清々しくも言い放つ吾が慕いし人は定年迎う
29日 春色のセータールージュパンプスで君に逢いたしああ春よ春
30日 君も吾もさびしい駅に時々は来て眠るなり空壜のように
31日 君と会う今日暖かしこんな日は桜色したコートに着替えて
4月
1日 入社式テレビ報道に映さるる若きらに思う今日よりは跳べと
2日 陽にとける桜並木の下通るうす青く見ゆ白きブラウス
3日 照り翳る空にあやうく紛れむか桜はすでに淡きさくら色
4日 花見する桟敷に並ぶ重箱に小芋の煮付けが輝いており
5日 露天風呂夜桜あかりにほんのりと吾のからだの輝くを見る
6日 花曇る朝の光の中をいくばば孫旅のローカル電車
7日 こでまりを手折りて挿せばそこだけに春の光は眩ゆく照りぬ
8日 吹き募る風に捲かれて舞い上がる妖精のごとき淡き花びら
9日 風のいろ花の動きのやわらかく今目の前を散りゆくさくら
10日 大切なものを忘れてきたような桜に青葉混ざる頃なり
11日 夢のよにぽわんぽわんと揺れる紅(こう)綺羅を散らせて魂を呼ぶ
12日 それ以上言わない人となにもかも聞きたい私散りゆくさくら
13日 みずからの命ふるわせ散り急ぐさくらくらくらその彩哀し
14日 桜から葉桜までのつかの間を逃すまいとて追いつかぬ日々
15日 桜色染まる街路を見つめつつ無口になりぬ雨降りやまず
16日 桜への未練たっぷり毎年の習いとなりし花追いかけっこ
17日 咲きて散る桜のごとき出会いなり異国の子らのディテール忘れず
18日 この国は礼重き人住みたるやとつくにの人に学びておりぬ
19日 人生の景色移れどほろ苦き居場所はいつもこの四畳半
21日 有終を飾るがごとく桜散れかささぎの橋となると決めた日
22日 春風に誘われて出る昼休み花屋と本屋のいつものコース
23日 平成に生まれし子らの哀しみは平和の御代に平和を知らず
24日 妖精の羽かカタクリ咲く谷にやはり戻ろう日だまり求め
25日 青嵐吹き抜ける森逍遥すショウジョウバカマ彩に咲きけり
26日 凛として媚びず健気でけがれなき山の桜を吾は愛しむ
27日 新緑の山は4月のファンタジィーさやけき音を奏でる楽器
28日 若葉風抜け行く駅のカフェテラスランチ待つ間にゆるり本読む
29日 若葉雨物憂き午後をパソコンに向かいて聴けるドリームカムツルー
30日 よく生きることはシンプルに生きることうっかり忘れる日々の複雑
5月
1日 ひと仕事終えて一息ジャズを聴く夢とライブを行きつ戻りつ
2日 つわ蕗をむけば春の香かつんつんす小さきゆうちゃん現れる宵
3日 若葉より漂う香りすくいあげ朝のペダルは軽やかなリズム
4日 パソコンの待受画面変えてみたツツジ青葉と春を競えり
5日 読みかけし青春の日の物語残りのページを気にしつつ読む
6日 駅まではミストシャワーの雨の中細胞深部へ潤いていく
7日 喘ぎつつ自転車漕げば坂道を燕はすいと追い越していく
8日 追わるよに仕事あるのもよしとせんいずれ時間も余まる日は来る
9日 みずみずと緑さやけき南禅寺記憶はやがて光はじめぬ
10日 パラソルで陽射しを避けていく吾に纏わるように揚羽蝶舞う
11日 地上の星ハナニラの花が庭の隅ひっそりと咲く小さな宇宙
12日 人間とはどうしてこうも優しいのか一杯のコーヒー味わいて飲む
13日 理不尽と思われること四つありき耐えて勤めし吾を誉めよう
14日 青空にスポーツクラブオープンの幟はためく工場跡地に
15日 ふつふつとオタフク豆を塩茹です万緑の里厨に拡がる
16日 初夏に向かう風を追い越し東へと列車は走る君を乗せて
17日 つめくさのコンクリートより咲けるのを日盛りに佇ちて愛しく見つ
18日 天界の扉開かるウエサク祭鞍馬の東満月は輝る
19日 人生はだましだましでいきましょかいつかは終わるしゃあないもんね
20日 この道を選んで今朝も歩いてる淡きピンクの薔薇薫る五月
21日 真実を測りあぐねし朝の時嘘つくことも愛のうちかと
22日 照るでなく曇るでもないブルーグレィ風よ運べよ翠(みどり)の五月
23日 そのうちに何とかなるで生きてきてそろそろやらねばタイムオーバーせり
24日 たまゆらのライトに浮かぶ横顔をそっと見ている深夜の車中
25日 目を閉じて詩語り聴けばエクランに収まりし玉ひそと輝く
26日 絵心も歌の心も誘われて吾は皐月の空に遊びし
27日 はつなつの空を見上げて溜め息す受信メロディ変えてみようか
28日 みどり雨比叡の里の山門に額絵のごとく琵琶湖収まる
29日 夏ものの学生服から出た腕の寒そに見えて日照雨(そばえ)降るなり
30日 恋しかる九重の山に幾たびぞミヤマキリシマ山萠ゆるらし
31日 走り梅雨油古びしキャンバスの臭いこもりて筆置きし頃
夏の短歌・・・マイプロジェクト365より
2019年6月
1日 夏近し新茶の香りの青々とサワーなる味わいひと時憩う
2日 君想う心静かに変わりゆく紫陽花の花よりもやさしく
3日 好きという気持ち遥かに拡がりて吾の本音は青葉に溶ける
4日 沈む陽と昇る月とのすれ違う世に生き君に逢うは運命か
5日 きゅるるりと水茄子割けば紫に染まる指先また夏は来ぬ
6日 電車にてリクルートスーツの一団と乗りあわす午後少しけだるく
7日 寂しさをやさしく溶かす物語り二人の距離を運びし小舟
8日 哀しみをやさしさにするコツを知る静かに明ける初夏(はつなつ)の朝
9日 私をやさしくする人一人いて哀しくさせる紫陽花の雨
10日 雨の降る真近かの空の昼下がりパステルカラーに私は変わる
11日 夕闇に恋する蛍飛び交いて想いはかなき水無月の寺
12日 誰がためにサムライウーマンという名のトワレ香らせて行く梅雨最中
13日 日々IFを問うを愚となし夢も見ず生くるに少し若くてありぬ
14日 偽りを人の為と書き人の夢を儚いと読む真理なるかな
15日 通学の子らが寄り合う傘の列雨に騒げる紫陽花に似て
16日 吾もまた宇宙(そら)より降りし旅人とたまゆらの命であらば角も曲がらん
17日 幾人も人と出会いて帰る道信号待てばつばくらめ飛ぶ
18日 若きらの声を聞きつつ講義終え坂を下れば紫陽花は笑む
19日 夏めきし陽射しを避けて路地裏に咲きて涼しきどくだみの花
21日 城崎は何をくよくよ川端柳竜馬も同じ湯に浸かりしか
22日 空に星地上に蛍追いかけてまほろばの野を迷い彷徨う
23日 同級生の訃報は夜空を駆けぬけて歎き尽きせぬ一年五組
24日 紫陽花の移ろうごとき人の身を淋しくなきかと日暮れ問いおる
25日 青空に入道雲は真白にてこんな夏には嘘はつけない
26日 それぞれに重荷背負いて生きる身ぞ励ましあいて生きるよりなし
27日 ボーッとする時間もないとあかんよと諭されておりぬずっと年下に
28日 ほとほとと夕べさみしく佇めば夥しくもりょうぜん花落つ
29日 雨近しどくだみ草は香り立つ染料臭立つ工場の隅
7月
1日 雷鳴に清しきものの胸に湧き雨中を駆ける衝動となる
2日 雨粒の混じりし風のねっとりと髪に纏わり鬱々と梅雨
3日 酔眼で見上げる夜空に輝くは少し欠けたる橙の月
4日 降るのかな晴雨兼用傘さしてどっちつかずの雨と心中
5日 北の天心星ひとつ目当てにてこの世の迷路旅を続ける
6日 またやってしまった私の空回り君は笑うけど会わす顔なし
7日 天の川七夕の夢に現れし綺羅星ふたつ父母の星
8日 辻つじに囃子の音を聞きながらそぞろ歩けばわがノルタルジィ
9日 起きること全てに意味があることを知らずに過ごす時間の狭間
10日 北で飲むコーヒーの香りの馥郁とあまやかに濃く満ち充りていく
11日 月光をひたひた浴びて川の辺に蛍を追いし北の宿なり
12日 ふらり旅引き寄せられて佇むは北のまほろば奇蹟の遺跡
13日 意のままにならぬ魂の容器なる脆き現身(うつしみ)吾にもありき
14日 言ったよな言わないような寂しさをかみしめ歩く今日も雨降り
15日 さるすべりうす紅雨に濡れながら妥協すること娘に説きおり
16日 決断は保留のままの自己矛盾紫に染まる残業の部屋
17日 携帯を通し聞こえし蝉の声都会の街路樹住み易すかりや
18日 雨だから肩よせ歩ける傘の中半径50の二人の世界
19日 繁華街の古きバーにてカクテルを飲みて語りし嘘と本当
20日 朝餉前時を惜しみて逍遥す川は流れて問うこともなく
21日 愛すれど菩薩のごとくもほどほどに我が名哀しき普通の女
22日 夏休み入れどリュックを肩に負いて幼なは通う留守学級に
23日 出会いても一期一会と散る花か留学生に和を伝えおり
24日 雨上がり眩しさに目を細めつつ見上げる空に笑う向日葵
25日 梅雨去りて夏雲湧くを見上ぐればそぞろ恋しき稜線の風
26日 夏盛り茄子に胡瓜にゴーヤもやし野菜ばかりが並ぶ食卓
27日 繰り返し木槿は開き累々と花を落として夏を越えゆく
28日 ひと時を包まれいたり深々と横で眠りし幼き寝顔
29日 異文化であれば浴衣を着てはしゃぐ若きら真夏の日輪の中
30日 母逝きて夢にも逢わず夏盛りノウゼンカズラ散りしきるなり
31日 パラソルを透せし炎暑逃げ来れば路地に玉響風の吹き過ぐ
8月
1日 夏バテを乗り切る昼餉の定番は水なす漬と冷たいソーメン
2日 夏空に湧きたつ雲よ青き峯よ吾を呼ばしむここに還れと
3日 散りゆける花火よ笑えわが裡の優柔不断意志薄弱を
4日 暑かった一日の終わり鋭角に熱演保ち陽が落ちていく
5日 天涯に清らに咲ける花のあり君に見せたきキレンゲショウマ
6日 絶え間なく哀しみのうちに生きるとも命あればの今日原爆記
7日 身うちより旅への憧れ湧き出づるゆくえ定めぬ夏雲の峰
8日 苦があれば楽きっとあり我が登る道にはきっと花が微笑む
9日 真夏日の道にくっきり記されし影を揺らして鐘の音は響く
10日 ヒマワリとブーゲンビリアにハイビスカス真夏真昼の三重奏かな
11日 山靴に伝わる大地踏みしめて朝明間近に吾出発す
12日 励まして生きん思いを深く持ち流れる星を独り眺むる
13日 吾愛し母の愛した白山の弥陀ケ原いま花の楽園
14日 信仰の山に咲きいしイワギキョウ紫ゆかし雲上に冴ゆ
15日 クロユリは室堂下部に群れ咲くと母言いおりしそに佇みており
16日 喘ぎつつ見上げる吾を驚かすクルマユリ朱く群れて咲きおり
17日 盆明けのけだるき身内励まして仕事の山を片付けていく
18日 踏み入りて容易くは抜けられぬ人の心の荒野に触れて
19日 願うほど責めては余る思いあり言葉は無力越えられぬ壁
20日 わが望みそこにあるのに掴めない「たら」「れば」ばかり繰り返す
21日 すぐ答出したい性を直さなきゃ思う後から追求してる
22日 捨てきれぬ一縷の望み追いかけてなお離れてく夢と現実
23日 つかぬよに離れぬようにただそっと君へと届く風になりたい
24日 仰ぎ見る今宵の月のよそよそし足元ばかり気にせしひと日
26日 上高地幾度通いし山の道風の声聴き森の声聴く
27日 稟として透きて清らな梓川わが哀しみは無心なる蒼
28日 湧き上がる雲の白さよ蒼空よ穂高の峰よ立ち去り難し
29日 暗闇に迷いし五十路の青嵐に吹かれて山に登り続ける
30日 君に逢い得た喜びの数ほどに街に溢れる光の洪水
31日 本すらも読まず余裕のなき日々と書店で気付く夏も過ぎ行く
私の365プロ「日々の短歌と魔法のしつもん」365/365
ついに365にゴールしました。
令和元年(2019)10.12
私の365プロ「日々の短歌と魔法のしつもん」365/365
(これまでの人生の中で詠った歌や最新作などオリジナル短歌365首と魔法のしつもん365をFBで発表するというマイプロジェクト)
たまゆら(玉響)とは
勾玉同士が触れ合ってたてる微かな音のこと
ほんのしばらくの間、一瞬のこと。
あるいは「かすか」を意味する古語で
草などに露の置く様とも
1年といえども
たまゆら
それはほんのひと時であったかもしれません。
そして
そのあとも
永遠にたまゆらは続きます。
今日は
日本がかつて経験したことのない
大型台風が直撃します。
命より大切なものはありません。
自然と折り合うしかないのかもしれません。
どうか被害が最小で済みますように。
今日の魔法のしつもん
Q:あなたの最後のゴールは何ですか?
私の365プロ「日々の短歌と魔法のしつもん」364/365
草原を風に向かって渉るときナウシカのごと顔上げていく
令和元年(2019)10.11
私の365プロ「日々の短歌と魔法のしつもん」364/365
(これまでの人生の中で詠った歌や最新作などオリジナル短歌365首と魔法のしつもん365をFBで発表するというマイプロジェクト)
ついにかカウントダウン明日で最終365
20年前から少しづつ書き溜めていた
短歌を、見直すいい機会になりました。
これまで、これだけ詠えたのに
今は詠えていないなと・・・。
この後は
あらためて
自由に、もっと自由に
歌っていきたいと思っています。
きょうは
これまでに詠った中での一番のお気に入りを!
今日の魔法のしつもん
Q:人としてどうありたいですか?
日本百名山001番目 北海道 1719m 47年前